遺品部屋とは
「遺品部屋」とは、入居者が亡くなったあと部屋が相続されず、遺品がそのまま長期間放置される状態を指します。分譲マンションで遺品部屋が発生した場合、建物全体の維持管理や資産価値に深刻な影響を及ぼすおそれがあります。
日本では単身世帯や高齢世帯が増加しており、国の将来推計では2040年には単身世帯の割合が約4割に達すると見込まれています。このような事情から遺品部屋は今後さらに増えることが懸念され、マンション管理においても無視できない課題となりつつあるのです。
遺品部屋増加の背景
遺品部屋は、築年数の古い分譲マンションに集中する傾向があります。これは築年数の古いマンションほど高齢者が多く住んでいることや、資産価値が下がっているため相続放棄されやすいことが背景にあるとされます。また身寄りのない高齢者が増えたこと、親族間・住人同士の人間関係の希薄化や管理組合が十分機能していないなども原因として考えられています。
遺品部屋のもたらすリスク
1.室内環境の悪化と法制度の壁
遺品部屋が長期間放置されることで、部屋は傷み、マンション全体の価値に悪影響を及ぼす可能性があります。しかし、現在の法律では、室内がどれほど荒れようとも管理組合は原則、部屋に立ち入ることができません。
2.マンションの資産価値の低下
遺品部屋の存在するマンションは、購入希望者にとって将来に懸念を抱かせるネガティブな材料が多く、売買が成立し難くなります。
管理費や修繕積立金の滞納が続くと、資金不足から共用部分の適切な維持管理が滞り、マンションの魅力や価値の低下につながります。共用部分の維持管理が不十分なマンションは、購入希望者にとって将来的な「修繕費用の増加」や「資産価値への懸念」から敬遠される傾向にあり、流動性の低下は市場における評価に影響を及ぼします。
3.費用負担の転嫁
相続放棄や相続人の不在により、故人の専有部分が承継されない場合、本来義務ではない費用が住民に及びます。管理費や修繕積立金の増額、遺品整理や原状回復費用、弁護士費用や裁判所の手続き費用など、多額の負担が住民全体にのしかかります。
現在の法制度では、遺品部屋の発生や孤独死の多発は想定されておらず、マンションの住人が費用と手間をかけて解決するしかないのが現状です。
予防策の提案
1.管理組合の取り組み
入居者の「緊急連絡先」を常に最新の状態に更新し続けることが、問題発生時の迅速な対応につながります。また「遺品の処分方法」を入居者との間で事前に取り決めておくことも必要です。
2.管理体制の強化
遺品部屋の問題は、管理組合が十分機能していないために深刻化するケースが多く、遺品部屋が長期間放置されていると、管理組合が問題に適切かつ迅速に対処できていない印象を与え、住民や市場の信頼を損ないます。 管理規約や連絡体制の整備、外部の専門家との協力関係を築くことで、いざという場合の対応力を高めておきましょう。
3.入居者自身の備え
当然ながら、入居者ご本人にとっても、事前の準備は重要です。将来の相続や遺品処分に備えて「遺言書」を作成しておけば、死後の相続トラブルを防ぎ、「生前整理」を進めておくことで、相続人の負担を大きく軽減することができます。
4.遺言書と死後事務委任の連携的活用
死後事務委任契約は、相続手続き以外の事務処理を幅広く扱うことができ、遺言書と併用することで、より包括的な生前準備が可能です。両者を組み合わせて活用することは、現行の法制度の下では、遺品部屋対策として最も有効と考えられます。