遺言書についてよくある疑問

  • 「遺言書はなんで作る必要があるの?」
  • 「遺言書には何を書いてもいいの?」
  • 「遺言書に決められた様式はあるの?」

こうした疑問にお答えするために、このあと遺言書の目的や内容について順にご説明していきます。

遺言書の意義

・相続トラブルの防止


遺言書がない場合、遺産は法定相続分に従って分割され、相続人による協議が必要になります。しかし、遺産の分配を巡って対立が生じたり、関係の悪い相続人や行方不明の相続人がいると、協議が成立せず手続きが進まないおそれがあります。遺言書があれば、こうした相続トラブルを未然に防ぐことができます。

・遺言者の最終意思の実現


遺言書を作成すれば、法定相続分にとらわれず、相続人に対し、自分の意思で財産の承継方法を指定できます。また相続人以外の第三者に遺産を贈与したり、さらに子の認知や、遺産を与えたくない相続人の権利を奪うことも遺言書によって可能になります。ただし、遺言書の内容すべてが有効になるわけではありません。法定遺言事項以外の内容は、遺言書に記載しても法的な拘束力を持ちません。

・相続人の負担の軽減

遺言書が重要となる場面を想定したケース。(事例形式
・夫婦はすでに高齢で子がいない。
・夫の直系尊属(両親等)はすでに他界し、兄弟姉妹が推定相続人となる。
・兄弟姉妹の中には、夫婦と疎遠だったり、関係のよくない者もいる。

遺言書がない場合
夫が亡くなった後、妻は遺産を取得するために、他の相続人と遺産分割協議を行う必要があります。
妻とともに法定相続人となるのは夫の兄弟姉妹ですが、ほとんど交流もなく連絡先も不明な相続人を探し出し、署名や押印をもらうのは高齢の妻にとって大きな負担です。

また、亡くなった夫に半血の兄弟姉妹がいたり、代襲相続が発生して甥や姪が相続人となったり、相続人に海外在住者がいた場合には、さらに時間も費用もかかり、手続きはいっそう煩雑となり難航します。
その間、妻は遺産を自由に使えないまま暮らさなければならず、生活にも不安が生じます

遺言書がある場合
このような場合、遺言書で「すべての財産を妻に相続させる」と定めておけば、妻は相続人全員の実印も印鑑証明書もなしに、単独で相続手続きを進められます。
兄弟姉妹(あるいは甥や姪)には遺留分がないため、遺言者の意思がそのまま有効に働くからです。

遺言書を用意しておくべきケース

  • おひとり様
  • 子どものいない夫婦
  • 前妻(前夫)との間に子どもがいる
  • 相続人の中に判断能力が不十分な者がいる
  • 相続人の中に音信不通の者がいる場合
  • 相続人以外に財産を譲りたい場合
  • 相続人のひとりに事業を承継させる場合
  • 相続財産に現金が少なく、不動産しかない場合

法定遺言事項とは?

法定遺言事項とは、簡単に言うと「遺言書に記載することで法的な効力が発生する、と民法で定められた特定の事柄」のことです。
法的な効力を持つのは、この法定遺言事項に含まれる内容だけで、それ以外の内容を書いても法的な拘束力は生じません。

法定遺言事項の具体的な内容として、主に以下のようなものがあります。

相続分の指定:遺言書によって、各相続人が受け取る相続財産の割合を、法定相続分とは異なる割合で指定することです。法定相続分に優先しますが、他の相続人の遺留分を侵害すると、「遺留分侵害額請求」の対象となる場合があります。

・遺産分割方法の指定:特定の財産を特定の相続人に「相続させる」ことを指定したり、さらに代償分割や換価分割といった、遺産の分割方法を具体的に指定できます。

・特別受益の持ち戻し免除:「特別受益の持ち戻し」とは、被相続人から特定の相続人へ、遺産の前渡しとみなされるような贈与(特別受益)があった場合、相続人間の不公平の是正のため、特別受益額を相続財産に加算して相続分を計算する制度ですが、遺言書によって、その持ち戻しを免除する意思表示です。

・遺贈:特定の相続人や、相続人以外の第三者に無償で財産を譲ることです。その場合、法的な効力のある遺言書がなければできません。

・子の認知:婚姻外で生まれた子を、自分の子として法律上認めることです。遺言による認知は、死後に効力が発生するため、生前に認知できなかった場合でも有効です。

・未成年後見人の指定:遺言により、未成年の子に対して後見人を指定できます。

・相続人の廃除または廃除の取り消し:廃除は、特定の相続人の相続権を遺言により奪うことができる制度で、被相続人に対して虐待や重大な非行があった場合などに認められます。反対に、遺言により廃除を取り消すこともできます。

・遺言執行者の指定:遺言内容を実現するための実務を行う人を指定できます。たとえば相続人が多数いて利害の対立が予想される場合、相続人に未成年者や認知症の方が含まれる場合、遺言書に遺贈、廃除、認知などの内容が含まれる場合は、手続きを円滑に進めるために、遺言執行者が必要となります。

・生命保険金の受取人の変更:契約者本人が遺言で保険金の受取人を変更することができます。生前に保険会社に連絡していなくても、遺言によって効力が生じます。

遺言書の書式

遺言の方式については民法で厳格に定められており、方式に反する遺言は無効となります。
遺言の書式には以下のようなものがあります。

・自筆証書遺言
・公正証書遺言
・秘密証書遺言